汗がアトピーを悪くします。夏のアトピー性皮膚炎におけるスキンケアの実際。
アトピー性皮膚炎の皮膚面からは、黄色ブドウ球菌が高頻度に検出されます。感染に対する免疫機能の低下により、本来皮膚が持っている抗菌作用が減少し、症状悪化の要因となっています。
夏は、汗によりこの抗菌作用が他の季節と比べ、弱くなりますので、これらの皮膚の機能異常を改善することが重要です。 その具体的な改善方法は皮膚の清潔と保湿にあります。
皮膚の清潔
アトピー性皮膚炎は痒みの激しい疾患です。掻くことは皮膚炎の最大の悪化因子であり、発汗、ホコリ、皮膚の汚れなどは痒みを誘発する原因となります。
例えば、発汗が痒みを起こして皮膚症状を悪化させることはよく経験されるとおもいますが、アトピー性皮膚炎の皮膚では汗の成分がアレルギー反応を比較的特異的に起こすことが知られています。
最近では、アトピー性皮膚炎の悪化因子として外来の環境抗原のみでなく自己の体内の成分(自己抗原)も重要な抗原となりうると考えられています。
外からの刺激ばかりではなく、「自分のかいた汗にもまける」ということです。
このことからも、汗や汚れは、入浴やシャワーを浴びる、外出時は濡れたタオルで拭くなどして速やかに落とし、皮膚を清潔にしておくことが大切です。
皮膚科でも、幼稚園や小学校から帰ったら、すぐにシャワー浴をした患児の症状は、明らかに改善したことが報告されています。また、本症の悪化因子と考えられている皮膚に付着したダニ、黄色ブドウ球菌あるいは真菌などを除去する意味でも入浴・シャワーは有益なのです。
スキンケア(異常な皮膚機能の補正)
1.皮膚の清潔(毎日の入浴)
◎汗や汚れは速やかにおとす(強くこすらない)
◎石鹸・シャンプーは洗浄力の強いものは避け、残らないように十分すすぐ
◎入浴後には必要に応じて適切な保湿剤を塗布する
2.皮膚の保湿
◎入浴・シャワー後は必要に応じて保湿剤を塗布する
◎使用感のよい保湿剤を選択する(夏場は油分の少ないもの)
3.その他
◎室内を清潔にし、適温・適湿を保つ
◎皮膚への刺激を避ける
◎掻破による皮膚の傷害を避ける(爪を切り、手袋や包帯)
アトピー性皮膚炎のドライ・スキンは、入浴やシャワーによって皮膚は潤いますが、放置しておくと皮膚は速やかに乾燥します。したがって、皮膚に潤いがあるうちに皮膚の症状にあわせて適切な保湿剤を塗布することが必要です。
保湿剤は原則としてそれぞれで使用感のよいものを選択してよいのですが、製品によっては使用中に、製品の成分である乳化剤や殺菌剤などで、接触皮膚炎を起こ す可能性もあるので、皮疹の変化を詳細に観察しながら使用すること。なお、白色ワセリンは菌密生部位に使用すると菌数の増加がみられ、症状が悪化する可能 性が指摘されているので注意が必要です。
夏の暑さで痒みが出ると「アトピーではないか」というご相談が増えています。下記は日本皮膚科学会のアトピー診断基準と、ハニフィンとライカ博士の診断基準です。参考にしてください。
アトピー性皮膚炎の定義・診断基準
■日本皮膚科学会
〈アトピー性皮膚炎の定義(概念)〉
アトピー性皮膚炎は、増悪・寛解を繰り返す瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。
〈アトピー素因〉
家族歴・既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)またはIgE抗体を産生し易い素因。
アトピー性皮膚炎の診断基準
- 瘙痒
- 特徴的皮疹と分布
①皮疹は湿疹病変
・急性病変:紅斑、湿潤性紅斑、丘疹、漿液性丘疹、鱗屑、痂皮
・慢性病変:浸潤性紅斑・苔癬化病変、痒疹、鱗屑、痂皮
②分布
・左右対側性
好発部位:前額、眼囲、口囲・口唇、耳介周囲、頸部、四肢関節部、体幹
・参考となる年齢による特徴
乳児期:頭、顔にはじまりしばしば体幹、四肢に下降
幼小児期:頸部、四肢関節部の病変
思春期・成人期:上半身(頭、頸、胸、背)に皮疹が強い傾向
③慢性・反復性経過(しばしば新旧の皮疹が混在する)
・乳児では2ヶ月以上、その他では 6ヶ月以上を慢性とする。
上記 1、2および3の項目を満たすものを症状の軽重を問わずアトピー性皮膚炎と診断する。そのほかは急性あるいは慢性の湿疹とし、年齢や経過を参考にして診断する。
■Hanifin& Rajka
アトピー性皮膚炎の診断基準
以下の基本項目を 3つ以上有すること
- 瘙痒
- 典型的な皮疹の形態と分布
成人では屈側部の苔癬化、幼小児では顔面および伸側の皮疹- 慢性あるいは慢性再発性皮膚炎
- アトピー(喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎)の既往または家族歴
さらに以下の小項目を3つ以上有すること
- 乾皮症
- 魚鱗癬,手掌の多紋理,毛孔性角化
- 即時型皮膚試験反応陽性
- 高IgE血症
- 年少時発症
- 皮膚感染症を発症する傾向(黄色ブドウ球菌や単純性疱疹)/細胞性免疫低下
- 非特異的手または足の皮膚炎を発症する傾向
- 乳頭湿疹
- 口唇炎
- 再発性結膜炎
- Dennie-Morgan下眼瞼皺襞
- 円錐角膜
- 前嚢下白内障
- 眼瞼色素沈着
- 顔面蒼白、顔面紅斑
- 白色粃糠疹
- 前頸部皺襞
- 発汗時瘙痒
- 羊毛および油脂溶媒に対する不耐性
- 毛嚢周囲顕著化
- 食物不耐性
- 環境,感情因子により影響されやすい経過
- 白色皮膚描記症,遅発蒼白反応
「日本皮膚科学会ガイドライン」より引用